安藤 そして、フィットを設立したんですね。立ち上げてどうでしたか。

中崎 最初は苦労の連続でした。資本がなかったので、人を雇うこと、機械を買うことができず、解体作業を専属の下請け業者にお願いしていました。しかし、自分たちの思う解体作業が行われず、結果、クレーム処理の毎日。お客様が何年も住んだ大切な家、工場、その想いを大切にし、丁寧に作業するという自分の考えが、下請け業者まで伝わらず、悔しさと挫折の日々でした。3年間そういう状態が続きましたかね。ついに我慢の限界、これではダメだということで、借金をして重機とトラックを購入。人手を増やし自分たちの手で理想の実現を目指しました。

安藤 持ち前の営業力で仕事はとれたが、理想を実現できず苦悩をしていたところ、一大決心したんですね。

中崎 自分たちで解体作業を行う上で、まずこだわったことは、制服、トラックを白色にしたことです。作業をすると、すぐに汚れる、白色は汚れが目立つから、一般的には黒や紺色の制服が多いんです。でも、汚れたら洗濯すればいい、毎日洗ってきれいにすればいい。そして、ただ壊すのではなく、思いを込めて丁寧に壊す。例えば、現場でほこりが舞うのを防ぐためには、どうしたらいいのかを考えました。そして、当時はメッシュシートが当たり前だったところ、白い養生シートをいち早く取り入れました。現場内では作業が終わったら、廃棄物の整理整頓を必ず行うというルールを作成。また、現場だけでなく、近隣の家の前の掃き掃除も徹底しました。そういう毎日の当たり前を、当たり前に行なう会社にしたいと思ったんです。

安藤 当たり前のことを、当たり前にですか。お客様の反響はどうでしたか。

中崎 「すごいね、そこまでやるの」っていう反響でしたね。一度仕事を頼んでくださったお客様がリピーターになってくれて。中には、「ちゃんとしているから、あんたらが入ってくれるんだったら、工期を待つよ」って言ってもらえることもありました。そして、このこだわりを多くの人に知ってもらうために、「日本一白色が似合う解体業者」というキーワードのもと、ロゴマークをはじめ、名刺、封筒、会社案内、ホームページなどの制作もしました。

安藤 こだわりを発信するためのツール作りをしたんですね。

中崎 当時、会社のロゴを作った解体業者なんていなかったと思うんです。だから、「フィットのトラックを見たよ」ってよく声をかけられるようになりました。そうやって、発信ツールを作成したことにより、お客様からの直接のお問い合わせが徐々に増え、フィットという名前も業界内で浸透していきました。ある大手建設会社のパートナー会の集まりで、自分たちの取り組みが発表されたことがあったんです。200人ぐらいいろんな社長さんがいる前で、おもしろい解体業者がいるって。「当たり前のことを当たり前にやる。その原点に返り、みんなで頑張りましょう」って話の題材にしてくれて。その時は本当に感動しました。

安藤 ある意味、解体業という業種が認められたという瞬間ですね。今は、ようやく中崎さんが描いていた解体が実現できるようになったという感じですか。

中崎 自分がやりたかった、お客様と直接会話をしながら解体作業をしていく、それがやっと実践できるようになりました。直接お客様とお話をすると、建物に対する想い入れを強く感じます。中には解体されていく建物を見て、涙を流すお客様も見えて。そういう姿を見ているうちに、解体される建物に詰まった思い出を、何か形に変えて残してあげたいと思うようになったんです。それで、「思い出プロジェクト」を立ち上げました。

安藤 「思い出プロジェクト」とは何ですか。

中崎 壊す建物の中で使われていた材料、廃材を利用して、例えば、時計だったり、テーブルだったり、新しい生活でも使っていただけるものを作ること。お客様に、ずっと思い出として残り、使っていただけるようなものを提供したいと思ったんです。お客様は、更地にしたら終わりではなく、実はそこから新しい生活が始まるんですね。だから解体業は古い生活と新しい生活の接点になっている仕事。その2つの思い出をつなぐ橋渡しの役割をフィットが担っていきたいなって。

安藤 なんか素敵な話ですね。中崎さんのこれからの夢って何ですか。

中崎 今、解体作業を依頼してくるお客様の年齢層を見ると、20代後半から40代前半の方が多いんです。その年代の方って、ものが溢れている時代に育った方たちだと思うんです。だから、この「思い出プロジェクト」を通じ、ものの大切さを感じてもらえたらうれしいですね。また、元祖・白にこだわる解体業者として、これからもお客様から信頼をしていただける会社であり続けたいです。

中崎昌宏
株式会社フィット 代表取締役


 歯科技工士、建築資材販売会社、販売施工代理店を経て、大手解体業者へ就職。その後、「当たり前のことを当たり前に行う解体業者」という理想を実現するために平成17年、株式会社フィットを設立。「日本一白色が似合う解体業者」というコンセプトのもと、社員のユニフォーム、トラックなどを白色で統一し、業界内で大きな反響を呼ぶ。また、建物の廃材を利用してお客様の思い出となるものを作る「思い出プロジェクト」を創設。古い生活と新しい生活をつなぐ橋渡し役として、日々奔走している。


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