安藤 会社を立ち上げたきっかけは?

大島 うちのお米が美味しいと評判になり、名指しで買ってくれるお客さんが増え、とても賄いきれなくなったんです。そこで8人の仲間に農法を教え、同じ米を作ることにしました。しかし収量が増えると、営業担当も必要になってくる・・・ということで企業化が合理的と考えたんです。多くの農家が抱える後継者問題もなくなります。8人のうち賛同した5人が50万円ずつ、残りを私が出資しての船出でした。

 その後、生産部門と加工部門、販売部門をそれぞれの別会社にするなど試行錯誤の繰り返し。でも徹底的に有機をやっていきたい私の想いに、スタッフが付いてこられなかったという経緯もあり、紆余曲折を経て、私の理想の米作りを追い求められる環境、現在の株式会社ごはんになったという感じですね。現在、スタッフは約20名。農業高校を卒業した子から元自衛隊員など、20代~50代まで幅広くいますね。

安藤 有機農法ってとてつもなく大変で手間がかかるものと思いますが、必要なものって何ですか?

大島 やっぱり勇気ですね(笑)。有機って取り返しのつかないことばかりなんですよ。楽しみにしているお客さんがたくさんいるのに、病気や害虫被害のリスクは格段に高い。「今年はできなかった」では済まされないんです。毎日休みなく、天気と戦い、雑草と戦い、病気や害虫と戦う。これは本当に勇気がなければできないことです。

 例えば、除草作業は有機栽培が抱える問題の一つ。それをいかに省力化できるかを突き詰めた結果、「自走式除草機」を開発してしまいました。今までの除草機はオンかオフの二極といった感じで、かゆいところに手が届かなかった。この除草機は力加減を調節しながら除草でき、稲を傷めにくいんですよ。

 害虫対策の一つには、「マガモ」があります。マガモを田んぼに放つことで、雑草や虫を食べ、水をかき混ぜてくれるのです。つまり、田んぼのメンテナンスをしてくれる存在。もちろん生き物ですから、世話が難しく、カモの気持ちにならないとなかなか働いてくれません。その扱いに苦労は絶えませんが、まだまだカモさんの力を借りないといけないんですよ。

 稲を育てることは命を育てること。例え自分の足が折れても稲だけは折らない、という気概がないといけない。最近の若い子は稲を「もの」として扱う傾向がありますが、命を扱っていると思え、と教えてるんです。

安藤 まさしく大島学校ですね! ところで大島さんって自分のことを百姓といいますよね?

大島 百姓というとどんぶり勘定、経営ができないイメージがあるかもしれませんが、最低でも百のことができないと務まらないのが百姓。農業の現場で、土にまみれて、葉っぱをかじる。見て、触れて、五感を駆使しながら作物を育てる、それが百姓という職業。銭勘定だけする「農業者」もいますが、それこそ誰にでもできるもの。本当の百姓はそう簡単には務まらない。だから私は誇りと愛着を持って「百姓」と名乗るんです。

 科学的なことは正直、よく分かりません。でも何年も稲の葉っぱをかじっていれば、発育状況や米の味、などが想像できるようになってくる。相手はしゃべらない稲。そんな稲がどんなメッセージを発しているのか、こちらから耳を傾けてあげなければいけません。

安藤 大島さんの有機への想いの強さこそが、株式会社ごはんの原動力となっているのを感じました! 最後に今後の夢をお聞かせ下さい。

大島 何と言っても有機農業の推進、拡大ですね。例えば、アトピーの子供が増えていたり、若者の精子が減少したりと、昨今、ヒトの様々な変調を感じます。有機農業を広めていくことで、食を通じて人と地球環境に貢献すること、それが私の使命ですね。これから産まれてくる子供たちには何の責任もないのですから。

 そして株式会社ごはんでは、お米の生産過剰対策として、お餅をはじめ、豆腐や味噌、そのほかトマトジュース、苺ジャムなど、お米以外にも様々な農作物を作っています。その全てで有機認定が取れる訳ではありませんが、できる限り有機にこだわり、ちゃんと素材の味がする農作物を目指しています。ゆくゆくは商品をもっと増やして、オール津南産食材で「津南ブランド商品」を作りたいですね。

 また、百姓としては、より美味しいお米を作ること。実は私自身、現状の出来栄えには全然満足できていなくて、今までにまあまあかなと思えた「70点」が一回だけ。あとは全て落第点。それでも年々、進化を感じています。今後も天気と戦い、己と戦い、頑張っていきますよ!

※1 河川の中・下流域に流路に沿って発達する、平坦な部分と傾斜が急な崖とが交互に現れる階段状の地形

大島知美
株式会社ごはん 代表取締役


米どころ新潟・魚沼で200年以上続く農家の跡取り。やんちゃな農業高校時代を経て、就農1年目で新潟県農村青年農業技術交換大会稲作部門で優勝し、大器の片鱗を見せる。有機農法に魅せられ、有機の拡大のために尽力。地元津南への深い愛情から、平成19年より町議会議員も務めるかたわら、百姓として今日も田んぼに立つ。文部省認定スキー教師という横顔も。

株式会社ごはん
〒949-8201 新潟県中魚沼郡津南町大字下船渡己5895
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