中村 ある日、オーナーシェフを育てる学校の理事長に、指導者としてお誘いを受けました。確かに専門学校では教職員として勤めていましたが、ここで決定的に違うのは、料理のみならず、その先の経営まで教えるということ。果たして自分に務まるだろうか、という思いはありましたが、人生懸けて学びに来ている生徒達に触発され、私も初めて真剣に経営と向き合い、教えることで学び始めたんです。経営とは何ぞや、接客とは、プロの技とは、料理ができる人間が儲かるとは限らない、等々。

 「コック50で野垂れ死に」。これは僕を奮い立たせた、ある経営者の言葉なんですが、料理だけ作っていては、若手はどんどん台頭してくるし、代わりはゴマンといる。そこで、料理人がダメになった時にどんな世界を作っていくか。「お金の稼げる料理人」を作ることは、自分にとって大きな課題のような気がしてきたんです。

 「ホテルピエナ神戸」で総料理長を務めた時、もう一つ大きな転機がありました。阪神大震災です。震災の2ヵ月後の新規オープンを予定していたホテルも延期の危機に。しかし、社長は「スタッフは全員、絶対に辞めさせない」と言ってくれ、スタッフも一丸となって震災のダメージから立て直し、オープンに漕ぎつけました。おかげさまでホテルのレストランは一年間予約が取れないくらいの人気店に成長。この時にプロデュースした「一夜一夜」という居酒屋やワインバー、お菓子屋は全て有名店になりました。それは料理人としてではなく、プロデューサーとしての成功だったのです。数年前は経営のことも十分に分からない、ただの料理人だったのですが、様々な転機が自分を成長させてくれたんですね。

 そして1998年、「一夜一夜」のフランチャイズ運営をしていくために、「キッチンエヌ」という会社を設立。飲食業はじめ、「食」にまつわる様々な職業の方の苦労を軽減するため、プロデューサーとしてお手伝いをさせてもらっています。

安藤 「食」に関する豊富な知識、経験を活かして、生産から開発、販売、流通までプロデュースできるのは、中村さんならではの強みですよね。

中村 ちょっと言い過ぎかもしれませんが「食」に関するお医者さんかな、と自負しているんです。食の裏側から根底まで、多角的に見つめて、原因を突き止め、処方箋を出す。企業さんにアツイ気持ちで指導させていただき、みんなで一緒になってやっていこうという気持ちで燃え上がるんですよ。

安藤 一緒にお仕事させていただいた時も本当にアツイ人だな、と心を打たれました! 最後に今後の展開を教えてください。

中村 かつて志した噺家、その「しゃべり」は確実に今の仕事に活かされていますし、落語と食にまつわる連載コラムも執筆するようになり、テレビショッピング番組のカリスマゲストとして、中学生以来、再び表舞台に立つ機会が増えてき ました。今年51歳になりますから、本来ならもう野垂れ死ぬ年齢(笑)。そう簡単に死んでたまるか! って感じですね。

 僕達人間は食をリードすることはできません。それは環境であり、地球のやること。どんなに畑を耕しても、洪水一つでダメになるんですから。運よく真っ当に作られたものをパズルのようにコーディネートするのが私の仕事。今、それをやれる人が少ないからこそ、仲間たちと手を取り合って、頑張っていきたいですね。

中村 新 
株式会社キッチンエヌ 代表取締役


数字の分かる料理人を作りだすこと、人々の健康に寄与する食べ物を作りだすことを目標とするフードプロデューサー。良品計画、JR東海フードサービス、UCCグループ、名鉄レストラン、モビリティランド(本田技研)など、現在の食シーンを牽引する数多くの優良企業の支援を継続中。テレビ番組レギュラーや、著書、雑誌コラム等の執筆も多数。

株式会社キッチンエヌ
〒654-0113 兵庫県神戸市須磨区緑が丘2-6-11
TEL:078-747-5508 FAX:078-747-5518  
URL:http://www.kitchen-n.com