生涯活躍できる美容師の育成を胸に、事業に取り組む長谷川清美。それを絵空ごとではなく、企業として実践している点は注目に値する。海外コレクションという華やかな舞台も支える彼女が、今の考えに至った経緯は何か。そしてこれから思い描く美容業界の未来とは。叩き上げブランディングプロデューサーの安藤竜二が核心に迫る。

安藤竜二(以下安藤) まずは株式会社マリエについて教えてください。

長谷川清美(以下長谷川) 株式会社マリエでは、美容に関するさまざまな事業を展開しています。カットから着付け、エステやネイルまでワンストップで提供する美容室マリエプラス千種本店、金山店を中心に、ホテルアークリッシュ豊橋内や熱田神宮会館内にある専属ブライダルサロンなど、合計8拠点を運営しています。年間で、成人式は約500件、卒業式は約900件、結婚式は2000件以上のご依頼をいただいています。一般美容からブライダル美容まで、あらゆる場面で輝ける。私たちが株式会社マリエを『美容のトータルプロデュースができるハイブリッドカンパニー』と表現しているのはそのためです。私個人としては経営に参画するのは当然のこと、コマーシャルのお仕事や桂由美さんのコレクションのバックヤードを務め、ミス・ユニバース・ジャパン愛知の講師なども担当してきました。

安藤 通常の企業ですとサロンの運営だけで手一杯になりそうですが、マリエでは美容に関する事業を幅広く展開。それには理由があるのですか。

長谷川 かつての日本ではカットだけでなく、セットやメイク、着付け、ネイルなど、こうした技術を全て習得している方を「美容師」と呼びました。つまり「美容の先生」です。それが、時代が進むにつれてヘアスタイリストやネイリストのように分業化されていき、結果、生涯を通しての活躍はしにくい職業になってしまったのです。ヘアサロンに目を向けますと、40歳、50歳になれば現場を退かなければならないのが現実。しかしトータルで美容を学べば、ブライダルの舞台があることで、60歳を超えても活躍できる職業になります。サロン運営のみだった弊社が、ブライダル美容をスタートさせたのはそのためです。実際、マリエでは定年退職制度を設けておりません。60歳になっても70歳になっても、生涯を通して活躍してほしいと考えています。現在の基盤は約10年かけて築いてきたのですが、この企業方針は非常に評価され、経営革新計画のサービス業の分野で表彰されました。美容師が全ての技術を身につけることで、七五三や成人式、結婚式など、人生の節目に携わることが可能となります。「生涯美容」と「お客様の全ての節目に寄り添うこと」。それがマリエの理念です。

安藤 素晴らしい理念に思います。やはり若い頃から「美容業界で働きたい」という情熱を持っていたのですか。

長谷川 今だからこそ言えますが、実は体育の教員になるのが夢でした。テニスの国体の強化選手に選ばれて、インターハイに出場したこともあります。それくらいスポーツが好きで…。ただ最愛なる弟の病死により女性としての自立を考え高山美容専門学校へ進学しました。進学校にいながら受験を諦めなければならかったのでとても悔しかったのを覚えています。忘れもしないのが、後に会った中学校の恩師からも「どうして国立大学を受けなかったんだ」と叱責されたこと。でも選んだからにはやるしかない。典型的な負けず嫌いなので、悔しさをバネにして首席で卒業することができました。