安藤 海外で出会ったレザーマンについて教えてください。

渡邉 当時ニューヨーク支店にいた社員が、あるショーでティム・レザーマンが開発したポケット・サバイバルツール(PST)の試作品を見つけたんです。それを気に入って、是非ウチで作らせてほしいと日本で商品化したのが始まりです。これが大ヒットして、レザーマンはどんどん大きくなり、現在はオレゴン州に大規模な工場を持つまでに成長しました。そして、ティムと三星刃物との絆から1986年にレザーマンツールジャパンという合弁会社を設立しました。グループ会社は世界各地にありますが、1番最初がレザーマンツールジャパンなんです。

安藤 世界初が日本というのは誇りですね。渡辺さんが次に考えた提案型OEMについてお聞きしたいのですが。

渡邉 今までの弊社の主力事業はOEM事業でした。お客様からご要望いただいた物を、確実に形にするのが基本の業務です。しかし、物凄い勢いで変化している現在では、要望の商品を形にするだけなら出来るところは他にもある。例えば、今の中国は成長スピードが速く、英語も話せれば工場の技術も格段にアップしている。このままではいけないと思い、次のビジネスモデルとして自分達で企画を作って取引先に提案しようと考え始めたのが提案型OEMなんです。そのために中国でスケッチから簡単に3次元図面とそれを利用した本物そっくりの光造形モデルが出来るしくみを作り、さまざまなデザインを提案しました。

安藤 未来を見据えて新しい取り組みを始めたんですね。その結果と、今後の展望について教えてください。

渡邉 ウォルマートさんに我々がデザインしたキッチンナイフを提案して大量の注文を戴きました。材質や形状、刃先を変えるなど、デザインに力を入れた商品です。しかし、中国でのコストが上がった為、価格を上げて下さいとお願いすると、それなら安価な他社さんに発注すると言われてしまう。提案型OEMでは商売を増やすことには成功しましたが、ただデザインだけでは、どうしても価格がネックになるんです。いろいろ悩んでいると、日本でも円高やバブル崩壊を乗り切った企業が残っていることに気が付きました。しかし、まだ彼らは海外販売には展開できていない。そんな企業と手を組んで、もう一度日本の良いモノを売りたい。特に、ニッチなマーケットが残されたターゲットだと思っています。そう考え始めたのは、2010年に西オーストリア自然環境保護局から、漁網に絡まった鯨を救出する特殊ナイフの製造依頼が入った時の経験からです。日本でしか出来ない独自の材料や工法で加工することによって、海水でも錆びないナイフを作ることが出来ました。同じ材質を使った商品には、アメリカの海兵隊の脱出用の非常用キットに入れるナイフなども作っています。この出来事で、日本固有の技術は例え価格が高くても買っていただけることに気付いたんです。今は、日本包丁と洋包丁の特徴を兼ね備えたハイブリット包丁や日本のカリスマ美容師が絶賛する理容鋏等、機能性を高めた日本の製品の開発・販売に力を入れています。今後、ジャパンメイドをもう1度海外へ売り込んでいきたいですね。そして、三星刃物がもつ戦前から貿易を始めた歴史と経験で、日本独自の技術の代名詞として日本の刃物イコール三星と言われるように、三星ブランドを世界へ発信していきたいです。

渡邉隆久
三星刃物株式会社 代表取締役社長


 4人姉弟の末っ子として生まれる。兄弟で男が1人だったこともあり、将来の社長として大学卒業後アメリカやドイツなどへ留学。学生時代の様々な経験から、コミュニケーション能力やサバイバル術を学ぶ。入社すぐの不景気や中国進出でのトラブルも、未来を見据えた粘り強い取り組みで乗り越える。常に新しい市場を切り開き続ける時代の先駆者。


三星刃物株式会社 
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