安藤 その苦境をどう乗り越えられたのですか。
田中 実はさらに追い打ちをかけるように、開発部の課長が退職したのです。その時は目の前が真っ暗になり、なぜ彼が退職する予兆を感じとることができなかったんだと自信を失いました。ところが、2010年のお正月休みにパソコンを開いたら、「いま開発は募集していませんか 」という1通のメールが届いていました。そのメールの最後に苗字だけ明記されていました。ひょっとしたら廃業した水栓メーカーにいた開発者では。 とピンときて、直接電話しました。彼は安定した企業に就職できる技術を持っているのにも関わらず、ボーナスも出せない田中金属製作所で働きたいと言ってくれたのです。それが転機になりました。そして、彼は要素技術の改良に成功し、マイクロナノバブルシャワーの商品化にこぎ着けることができたのです。私はこの商品で何が何でも会社の業績を上げようと決意しました。このチャンスを活かさなければ父や社員たちの頑張りに顔向けできませんから。
安藤 ご縁が転機になったんですね。そのシャワーについて教えていただけますか。
田中 商品名は『アリアミスト ボリーナ』です。従来のマイクロバブル発生方法の多くは、外気混入してマイクロバブル化させています。しかし、ボリーナに内蔵しているμ-jet(ミュージェット)システムは、水分中にある空気を利用してマイクロバブルを発生させていますので、外気の影響を受けにくいのが特徴です。外気吸気をしないので、白濁する大きなマイクロバブルではなく、超微細な良質のマイクロバブルを生成することができます。0.1マイクロメートルという微細気泡が毛穴やシワの奥に入り、汚れを吸着してキレイになる。また、それによって通常のものより6倍という温め効果もあります。
安藤 素晴らしい効果があるんですね。売れ行きも好調だったのではないですか。
田中 それが、そう簡単にはいきませんでした。元々マイクロナノバブルシャワーは1万5000円ほどで販売されていたので、1万円を切れば売れるだろうと思い、『アリアミスト ボリーナ』の価格を9800円(当時)にしました。それでも高いとどこも扱ってくれなかったのです。そんな時、東急ハンズのバイヤーさんから完売王と異名をとる販売のプロの方を紹介していただきました。その方に、売れないのだったら実演販売すればいいとアドバイスしていただき、これしかないと決意しました。社員は反対しましたが、良い製品を作っても製品が踊るステージがなければ知られることもなく、作り手の自己満足で終わる、ステージを作るのが大事という私の持論で挑戦することにしました。そして、2012年の12月に東急ハンズの銀座店で実演販売を行ったのです。結果、1日で30本を達成。お店の方もびっくりしていました。それから毎週末東京へ通い実演販売を続けた結果、各店舗から実演の依頼が殺到するとともに、取り扱い店舗も増えていったのです。しかし、半年後の2013年5月にパートナーの体調が悪くなったことで、もうやめようと弱気に。そんな時、ある経営塾で年間5500時間働いてみえる塾生の方の話を聞き、私の中で覚悟がさらに大きくなり、諦めることなく実演を続けることができたのです。そして、この実演販売の継続が思わぬ奇跡を起こしました。『ガイアの夜明け』のディレクターから電話がかかってきたのです。
安藤 諦めずに続けたことで最高の出会いに恵まれたんですね。その反響はいかがでした。
田中 反響はかなりありました。『ガイアの夜明け』の放送終了後、想像以上の販売数を記録しました。その成果もあって、経常利益が1.4%から25.6%と跳ね上がり、弊社は見事V字回復したのです。しかし、これはきっかけに過ぎません。これに慢心するのではなく、これからも日々邁進しないと継続して成長できないと考えています。
安藤 それは間違いないと思います。では今後の展開を教えていただけますか。
田中 美容関係は既に進んでいますが、医療や水耕栽培など、まだまだマイクロナノバブ ルという技術を活かせる分野はたくさんあると思っています。まだそれを裏付けるしっかりとしたデータを取れていないですが、実験は現在進行中です。また、『ガイアの夜明け』ではシンガポールへ行きましたが、他にも中国や台湾、韓国などからも声を掛けていただいております。今後は海外進出も視野に入れ、自分たちが培った節水の技術を、水の少ない地域で役立たせていきたいと考えています。
田中和広
株式会社田中金属製作所
代表取締役
1968年生まれ。地元部品加工会社に就職、5年間修行を終え真鍮部品加工の職人として家業を継ぐ。水栓部品加工の傍ら自社商品『節水シャワーアリアミスト』を開発し事業化。 幾多の困難に見舞われても決して諦めず、常に前を見て努力し続ける不撓不屈のリーダー。
株式会社田中金属製作所
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